[追記] 2024.07.14
EMU SPEED CLUBのえーぞうさんが、最適化についての動画を撮影してくださいましたのでご紹介いたします。
こんばんは。
皆さんはホイールの乗り味を調整できる事についてはご存知でしょうか。
今回はロードバイクを想定して進行してゆきますが、スポークドホイール全てに該当するお話になります。
まず、(一部の例外を除いて)完成したロードバイクにおいて、パーツ交換等せずに乗り味を調整できるのは
・タイヤの空気圧
・ホイールのスポークテンション
の2点のみになります。
空気圧は身近なので言わずもがなですが、ホイールのスポークテンションで乗り味を調整できるという事はあまり周知されていないので、出荷状態そのままの完組ホイールが(体重・出力・タイヤ・空気圧・フレーム・フレームサイズなどが異なる)様々な条件下で使用され、各自がこのホイールはどうのこうのと言う感想を持ってしまっているのが現状です。
これはフレームサイズに置き換えると、身長150cmのAさんと身長190cmのBさんが同サイズのフレームを使用している様なモノなので、その異常性が想像し易いかと思います。
しかし完組ホイールは、フレームの様に一つのモデルが複数のスポークテンションで展開されているモノは(私の知る限りでは)ありません。
ウェアで言えばフリーサイズとして製造されているワケです。
メーカーの販売方法ではどんな人が使うか分かりませんし、使用者一人一人に合わせて調整するなんて効率の悪い事をするのは実質不可能なので、基本的にはどんな人が使っても大丈夫な様に安全マージンを大きく確保した上でフリーサイズにせざるを得ないのだと思われます。
なので、今お使いのホイールがドンピシャで、そのホイールの性能(加速・巡行・ハンドリングなど)全てに100%満足されているという方はかなりの幸せ者です。
で、当店では使用者の体重・出力・用途・空気圧・ペダリングタイプ・使用ホイール遍歴と各モデルの感想などを問診させて頂いて、それを参考に調整し、店舗周辺を試走してフィードバックを頂き、それを参考に再調整、再度試走…という感じで調整と試走を繰り返して使用者にとって最適な乗り味にする事を「最適化」と呼んでいます。
この記事をご覧になって「そうなんだ、じゃあ取り敢えず近くのSE〇サイクルやY’sR〇adに乗り味の調整を依頼しよう」というのはちょっとお待ち頂きたいです。
一口に乗り味が調整できるとは言っても、ホイールによって調整可能な範囲も異なりますし、その調整する技術やノウハウを持っているショップさんというのは非常に少数というかほぼ無く、特に当店の「最適化」という作業は技術のみでなく、実店舗があり完全予約制だから実現できる特異性の高いサービスになります。
取り敢えず調整だけという場合でも、下記の技術レベルについてご覧頂いてから依頼先を検討される事をおススメします。
–当店が考える技術レベル段階–
レベル1 自称振れ取りができる(分かってない故に何でも安請け合いする)
→厳密には出来ていないケースも多い。
スポーク捻じれまくり、合ってない工具を使ったのかニップルが変形したりボロボロに削れているケースが多い。
闇雲に増し締めしてゆきリムを割られたというケースもあり、代金を頂いていい段階ではない。
上記の事例はショップのみでなく、ユーザーがセルフ施工するケースでも割と多い。
レベル2 自称ホイールが組める(出来てるつもりで物事を短絡的に考えガチ)
→製作されたホイールのスポーク長が全然合っていなかったり、工具の種類や扱いが悪いのか、組む段階でパーツがボロボロになっている等まともに組めていないケースも多い。
代金を頂いていい段階ではない。
レベル3 一応ホイールが組める(ある程度できる故に難しさを知った段階)
→振れはある程度追い込めているが、テンション管理は曖昧で均一化出来ていないケースも多い。
難易度の高い作業や他店購入品は断られるケースも多い。
余計な事をされないので、ある意味一番助かる。
レベル4 ホイールが組める(技術がある故に、作業者の考え方次第で対処が大きく異なる)
→まともに組めるが、調整のノウハウがそれ程ないのかテンション管理が大雑把なケースが多い。
乗り味の調整という概念がある場合でも、軟め・硬め程度の感覚で精細なモノではない印象。
レベル4の実例①
ロング向けに軟くしたいと依頼したら、比重の軽いスポークに交換された。
→当店的にはテンション調整のみで事足りる、むしろ乗り味的にはスポークは替えない方が良かったという見解。
レベル4の実例②
ホイールを硬くして欲しいと依頼したら、段階も無くいきなりそのホイールのMAXの硬さにされた。
→少し寒がっている人に熱湯を掛けてあげる様な親切心。
レベル5 良いホイールが組める
→調整技術とノウハウがあるので、ライダーのプロフィールや用途に合わせて精細な乗り味の調整・ホイールの製作が出来る。
レベル6. 錬成陣なしでホイールが組める
→真理の扉を開くと出来る様になるらしい。
以上、あくまで調整技術(=組み技術)にフォーカスしたレベル分けで、現時点で当店は自己評価でレベル5となります。
結局どのレベルでも客観的に「自分はこれが出来ていない」という事に気付けない限り、次のレベルにシフトする事はありません。
なので、当店も現時点ではまだ出来ていない・気付いていない事があるだろうし、考え方の方向性がズレている可能性もあるけれど、それが何かはまだ分からないので、レベル6以降の事は未知なワケです。
とはいえ現状として、最適化をご依頼頂いた殆どのお客様からは「こんなに変わるものなんですね」「本当に同じホイールとは思えない程良くなりました」とのお言葉を頂きますので、当店としてはホイールを製作する上でスポークテンションを使用者に合わせて最適に調整する(最適化)事が最重要と考えています。
因みにレベル4の実例でご紹介したケースも含め、当店では有名なショップさんや一部で話題のビルダーさんなどが製作された手組ホイールを持ち込まれる機会も少なくないですが、お客様からお話を伺い、組まれたホイールの状態を見る限りではせいぜいレベル4程度で、当店と同水準で使用者に最適な調整がされていた事は一度もありません。
–余談–
現行のARPホイール guarneriシリーズに関して、SNSで一部の方々が「殆どの完組は24Hだから21Hはスポークが少な過ぎてダメ」「リムが軽過ぎると慣性が働かないから巡行がダメ」と想像だけで話している方がいらっしゃる様です。
スポークというのは、材質・形状・比重と、ホイールに対してのトータル質量(本数ではない)でベースのキャラクターや乗り味の調整代、耐荷重などが変わります。
guarneriシリーズではSLとCSの2種類のスポークを採用していますが、スポーク1本の変形剛性とトータル質量的に21Hで足りる様にパーツの選定を行っておりますので、スポーク本数が~という指摘は少々見当違いになります。
因みに、たまに「スポークをCX-Rayで組んでもらう事はできますか?」というお問い合わせを頂きますが、CX-Rayは変形剛性が低く、伸びのある乗り味に調整する事が出来なくなる為お断りしています。
実際に、guarneriシリーズの試乗で最適化を体感された方や、既にご使用頂いている方々からは、巡行性能についても問題ないどころか(特にCSでは)速度を乗せるのが早い(レスポンスが良い)上に速度を維持するのも楽(巡行性能が高い)とのご意見を多数頂戴しています。
この様に使用者一人一人に合わせて製作・調整できるというのは、完組ホイールに対して手組ホイール最大の優位性になります。